
晴れた日に突然空から何かが降ってくる、何かというのは雨や雪ではなくおよそ気象事象とは関係の無い蛙である。西暦1973年9月24日付のアメリカの新聞「ザ・タイムズ」には、前日に南フランスのブリニュル村で幾万ものひき蛙が降ったとの記事が掲載されている。嵐の後に降ってきたため、嵐によって起きた竜巻に吸い上げられた蛙が、嵐が去った後にその地域一帯に降ったものだと解釈がされているが、竜巻などで巻き上げられたのだとすると蛙以外の物も巻き上げられているはずなのだが、それらは降ってきていない。不思議なことに降ってきたのはすべて蛙なのである。
事象
こういった事例はフランスだけに限ったことではなく、実は古くから世界中で報告されており、降ってくる物も蛙のほかに、魚や海老、石や氷(雹や霰とは違い、大きいもので数十センチのもの)などがある。しかも、これらが混ざって降ってくるのではなく、蛙なら蛙、魚なら魚だけが降ってくるのである。
比較的有名な話をあげてみても下記のものがある。
1859年、イギリスのウェールズにあるグラモーガンシャーでは生きたままのトゲウオが地面を埋め尽くすほど降り、これが2度もおきている。
1861年2月、シンガポールで大地震があり、その数日後、突然空から大量の魚が降ってきた。
1896年、ドイツのエッセンでは鮒の稚魚が入った大きな雹が降った。
1900年5月、アメリカのニューヨークで強風と雷雨の中から十数センチの魚が生きたまま降ってきた。
1918年8月、イギリスのサンダーランドでミイラ化したウナギが数分間降り続いた。
1922年3月、アメリカのカリフォルニア州チコという町で数ヶ月にわたって石の雨が降った。
1922年9月、フランスのシャロン・シュル・サオンでは2日間にわたり蛙が降り続いた。
1939年9月、アメリカ領グアムでヨーロッパに生息する鯉科の淡水魚が降った。
1968年8月、イギリスのエセックスで2〜30センチ大の魚が降った。
1979年6月、ギリシアのコモティーニで交通渋滞を引き起こすほど大量の蛙が降った。
1979年7月、イギリスのベドフォードシャーで、ビダ・マクウィリアム婦人の自宅の庭に蛙が豪雨とともに降ってきた。
1989年、オーストラリアのクィーズランド州ローズウッドでは数百匹以上の鰯が降った。
1997年2月、サウスオーストリア北部のウェルボーンヒルズ家畜牧場に生きているイサキ科の小魚が降った。
また、上記以外にも18世紀にはトランシルバニアに魚が降った様子が木版画に残されており、さらにはいくつかの宗教書を初め、古い書物にもこのことだと解釈できる事象が描かれていたり、民間の伝承に残っていたりもする。
しかも、例えば2つ目の事例では報告を行ったのは当時シンガポールに滞在していたフランスの植物学者であり、6つ目の事例では調査を行ったのが大学の研究チームであるなど、少なくとも社会的な信頼がある人物やグループ、そして公的機関までもが調査・報告を行っており、実際に空から降ってきたこと自体にはほぼ間違いは無いとされている。ただし、はっきりとしているのはそこまでで、どうして魚や蛙などが降ってきたのか、どういった原理でそんなことが起こるのかは依然として解明されていない。そのため、これを解明するために研究者の間ではいろいろな仮説が立てられている。
竜巻説
少なくとも本来地表あるいはその近くにある物体が落下するには一度上昇しなければならない。そのため、解釈のひとつとして竜巻などによって魚などが巻き上げられ、それが降ってくるのだとしているものがある。実際にいくつかの事象はこの説で説明がつき、特にいろんな物がいっしょに降ってくる場合はほとんどこの説で間違いは無いとされている。しかし、この説には魚といっしょに吸い上げられるであろう魚以外のものが降ってこないことについての説明がなされていない。つまり、竜巻によって吸い上げられたのだとすると、魚のほかにその付近にあったものがいっしょに吸い上げられ、それも降ってくるはずなのだが、降って来たものは例えば鰯なら鰯のみ、青蛙なら青蛙のみといったように、ひとつあるいは限られた種類しか降ってきていない場合がほとんどなのである。また、例えばグアムで降った魚はテンチという当時主にヨーロッパにしか生息していない魚であるなど、その生物が本来生息していない遠く離れた地域に降ることは竜巻説では説明がつかない。さらには魚が腐っていたり、あるいはミイラ状になっている場合もあり、やはり竜巻説ではこれを説明できない。
自然現象説
竜巻も自然現象に分類されるかもしれないが、この自然現象説は主に氷や石などが降る場合に説明されるもので、数センチ大の氷の場合はほぼこの説で説明ができる。霰や雹は雨などの水分が落下中に凍りつくもので、直径5ミリ以上のものを雹と言うが、雹とは意外なほど大きくなることがあり、実際にゴルフボール大や野球のボール大のものも観測されたことがある。また、さらに大きく、落下数が少ない場合は宇宙から飛来する氷塊である可能性もあるとされており、石が降る場合も同様に宇宙からの隕石群の成れの果てだと解釈されている。しかし、とくに石については降ってきた石が隕石の特徴を備えていない場合がほとんどで、やはり全てを説明できるわけではない。
プラズマ説
現在、認識されている物質の形状には3つあり、固体、液体、気体となっている。そしてこれに続く4つ目の形状としてプラズマがあるとされている。プラズマは原子核と電子がバラバラになった状態であり、規模や密度の違いによってその性質を多様に変化させるといわれ、通常は発光を伴う。ミステリーサークルや未確認生物など不可解な現象はこれで解明しようと試みられており、空から魚などが降る現象もこれで解明を試みる研究者が多い。磁場や重力場などとも影響しあい、空間と空間を結んでしまうのではないかといわれており、その結果、一方通行でそこに吸い込まれた魚などは別の空間、ここでは高空に投げ出され降ってくるのではないかとされている。
その他にも多くの説が唱えられているがどれも一長一短で、とくになぜ特定の物体しか落下してこないかの説明については現実的なものや説得力のあるものはない。古今東西の世界中で報告されているにもかかわらず、その原因についてはいずれも謎のままとなっている。

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